そして、遂にやってきた被告人質問です。
弁護人「上京したのはいつですか?」
被告人「平成10年7月です」
弁護人「奥さんと知り合って同居したのは?」
被告人「平成13年6月です」
弁護人「その頃の職業は何ですか?」
被告人「学習塾で講師をしていました」
弁護人「他には何かやっていました?」
被告人「(当時の結婚前の)妻が、月に50万円ないと生活できない!と言うんで、いつも、金ない、金ないって。塾は昼からだったので、朝はポスティングしてました」
東京は物価が高いとは言うけれど、2人暮らしで月50万……?
弁護人「平成14年に結婚して、翌年に娘を出産。柔道整復師の専門学校に通ってますけど、反対はされなかった?」
被告人「はい。月70万円あればご自由にと」
2年の間に月に稼がなきゃいけない額が20万円アップになっていたようです。
弁護人「月70万円って稼げるの?」
被告人「妻の考えが、稼ぐ人と金を使う人は別だと言われまして、あなたは稼ぐ人だと。なので、土日も休まず仕事してました。反論すると、ゴハン作らないわよ!と、私と娘がゴハン抜きになるので、怒らせてはいけないなと」
“稼ぐ人と使う人は別"発言にざわつく法廷。
弁護人「その後、会社員になりましたね」
被告人「周りがみんな持ち家なのにうちだけ借家だと、娘が可哀想だから家が欲しいと。そのために就職しました」
弁護人「じゃ、副業はやめたんですか?」
被告人「年収が600万円と知ると、それじゃやっていけじゃないの!と私や娘に当たりますので、家庭教師や学校の講師やデリヘルの運転手などの仕事もしていました」
弁護人「その平成19年頃の月収は?」
被告人「月130~160万ありました」
弁護人「でも、サラ金から借金してますよね」
被告人「寝る間も削って働いたんですけど、妻が足りない足りない、と」
弁護人「何に使ってたんですか?」
被告人「私は出張や夜勤も多く、家には週に1回寝るために帰る程度だったので、食費と交通費です。妻に使いみちを訊くと、詳細はわからないと言われて。お受験のための習い事やママ友とのランチ、あとは娘の洋服やバッグも買ってましたので……」
弁護人「ちなみに、あなたの小遣いは?」
被告人「月3万です」
なぬ? 家計は家庭ごとに違うのは当然なんだけど、稼ぎと小遣いに開きありすぎでしょう。稼ぐ人と使う人は別って理屈なんだろうけど。
弁護人「平成21年6月、偽医師をやることになったきっかけは?」
被告人「娘が私立の小学校に入ってから、妻の見栄の張り方がエスカレートして、周りが連休や夏休みに海外に行くと聞けば、国内じゃ娘がかわいそうでしょ!と怒り出して。今も自転車操業で生活してるのに、これから何をして稼げばいいんだろうって」
弁護人「偽医者はあなたの発想?」
被告人「これ以上稼げないと妻に相談したら、冗談半分に、"偽医者でもやればいいじゃん。パパならできるわよ~"って言うので、その時は"バカじゃないの、やるわけないじゃん"って言い返しました。その後、サイトで求人を探していると、医者の日給が6~7万と描いてあるんです。……今まで2年間寝ずに働いてきて、これやれば夜勤やらずに済むな、寝れるなぁって。ラクしたいと思って偽医者に手を染めました」
これが偽医者を始めたキッカケと動機です。
弁護人「逮捕されたときの気持ちは?」
被告人「正直、ホッとしました」
弁護人「どういう意味ですか?」
被告人「診察室での罪悪感もなくなり、いつバレるのかと心配することもなくなりましたし、拘置所にいると金がないと言われることもないので」
弁護人「本件は奥さんのせいですか?」
被告人「逮捕当時はそう思ってました。でも、同居者で再犯を繰り返す人がいて、その人たちって自分の犯罪を人のせいにしてるんですよね、話を聞いたら。自分もその人たちと同じだなぁと反省しました」
弁護人「じゃあ、どこが悪かったんですか?」
被告人「妻に強く言えなかった弱さ、バレなきゃ何をやってもいいという甘い考え、(月130万円稼いでいた平成19年頃)男は稼いだ金で価値が決まるという思い込みの3点です」
てっきり奥さんの所為だと責任転嫁するのかと思う質疑応答だったんだけど、自分が悪いとアピールです。この後も謝罪の言葉を述べて、質問終了。
次は、検察官から。
検察官「平成13年に月50万円の収入を要求されたとき、塾の収入はいくら?」
被告人「月25万円です」
検察官「高額だと思いませんでした?」
被告人「家賃が16万円だったので、何に使うのか訊いたら、色々、と言いくるめられました」
検察官「内訳を訊かなかった理由は?」
被告人「最初、母親に電話させられて、とにかくお金持ってきなさいよー!と怒鳴られて、それで訊けませんでした」
検察官「なんで従わなきゃいけなかったの?」
被告人「1回逃げて、友人の家にいました。でも、妻が警察に保護されまして、私が引き取り人になってたみたいで、連絡がありました。それで、逃げられると思ったら大間違いよ、と。その時から言いなりでした」
検察官「なんで言いなりなの?」
被告人「……好きだったんだと思います。途中、度を越して呆れましたが、愛していました」
と、好きだったから奥さんの言うことを聞いていたと主張です。
検察官「診察中は何を考えてた?」
被告人「半分は仕事しなきゃって。もう半分は、俺はこんな事してて良いのか、マズイだろと」
検察官「もしバレなかったら?」
被告人「偽名でやっていたので、マイナンバー制でしたっけ? あれが導入されたらバレるなと」
えらく冷静だなぁ。3年間騙し通してると、自信もあるんでしょうかね。
検察官「起訴以外でも偽医者やってますね。3年間で何人位診察しました?」
被告人「正確な数は分からないので、大体の記憶になりますけど、3万人位だと思います」
これは、被害者数が桁違いですね。これだけ被害者が多い裁判って傍聴した事ないなぁ。ま、実際は病院や人材紹介会社が被害者ではあるんだけどざ。起訴されていない分が、どれだけあるのか気になりますね。
最後は裁判官から。
裁判官「奥さんに仕事はなんて説明してました?」
被告人「偽医者始めたよ、と」
裁判官「奥さんは知ってたという事? 何か言われませんでした?」
被告人「うちの妻って、お金稼いでいる人ってちょっと位悪い事しないと駄目なのよと言う人なので、俺もそういう価値観になっちゃったんです」
本件がちょっと位悪い事と思っている夫婦って、一体……。
裁判官「健康診断で、間違った診断をしてしまうんじゃないかという心配はなかった?」
被告人「実は、シートにですね、重要なことは書くなという注意書きをしてある病院もあって……、大きな事故になったらどうしようとは思っていました」
結局、健康診断なんてそんなものかよ。診断結果が変でバレた訳じゃないし、重要じゃないのかも知れませんね。
裁判官「偽医者やる前の月収はいくら位でした?」
被告人「月160万円前後」
裁判官「寝る間を惜しんで色々働いていたと。その生活が続くと思ってました?」
被告人「体にガタが来てました」
裁判官「何故、奥さんに相談しなかったの?」
被告人「なんか、(就職して複数の副業を掛け持ちしてた)平成19年に自分でどこまで稼げるか、どこまでやれるのかと勝手にやっちゃってて、眠いとか言えなかったですね」
この頃は沢山稼ぐ事を目標にしていたようですね。
裁判官「今はもう離婚している、と。でも、面会には来てくれているそうだけど、どんなな話をしているんですか?」
被告人「今、どれだけ苦しい生活をしていうか、と。もう一つは、もう一度立ち直って、娘が尊敬できる父になってくれ、と」
話の流れ的に、面会にも来てなくて、見向きもされていないのかと思ったら、話し合う機会はあるようですね。離婚したとは言え、被告人を見捨てた訳じゃないのでしょう。すると、検察官が手を挙げて、
検察官「追加の質問を。元奥さんが面会に来た時に、お金の使い途を訊きましたか?」
そうですね、これは重要だ。当時は誤魔化されたかもしれないけど、こういう状況になったら、寝ずに稼いだ金や偽医者にまで手を染めて得たお金の使い途を教えてくれるはず。すると、被告人の答えは、
被告人「訊いたんですけど、それより私はこれだけ辛い生活をしているんだと、30分間ブワーーッと言われて……」
拘置所の面会でもはぐらかされたようです。しかも、被告人は文句を言われてるって事だよなぁ。なんか、結婚って大変ね。
この事件って、免許ない人が医者になりすます事が出来るシステムに問題があるなんて報じられてたけど、どう考えても、問題は他にあるんだろ。
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