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山中俊治の「デザインの骨格」 - 佐藤卓さんの「おいしい牛乳」
「『おいしい牛乳』のパッケージは完璧なデザインである。清潔感と俗っぽさのバランスといい、売り場での存在感といい、これほど完璧なデザインは滅多にないと心から思う。しかし私にとっては最低のデザインでもある。なぜなら、私はここから何のインスピレーションも得ることができないのだ。」
この「おいしい牛乳」のパッケージ・デザイン評を私は、公開のトークショーの場で、佐藤卓さんに直接言ってしまいました。尊敬を込めての発言なのですが、発言してから「最低」はいい過ぎだったかもとちょっと後悔しました。しかし、卓さんは大笑いしながら答えてくれました。
「いやいや最高の褒め言葉じゃないですか、うれしいですねぇ。」
もちろん褒め言葉でした。店頭に並んだ時のリズム、明解な色調、ネーミングの新鮮さとロゴの堂々とした感じ。清潔感と端正さがありながら、適度に大衆的。そのうえ、商品パッケージとして必要な情報を全部詰め込んで、なお煩雑さを感じさせません。あらゆるディティールに理由があるその周到さには感動を憶えます。
しかし、一方でプロフェッショナル過ぎるとも感じます。その手際の良さは、イチロー選手のタイムリーヒットみたいなもので、完璧にねらい通りの場所に落としていて、それ以上でも以下でもない。うっかりすると場外ホームランになってしまう打球でもなく、ましてや豪快な空振りのようなわくわく感はどこにもありません。
あくまでも商品のデザインであり、アーティストとしてこれを見たときには、ここからインスパイアされて何か新しいものを見つけることは難しいでしょう。その意味で「最低」という言葉を使いました。よく言ったものだと思いますが、卓さんには、ちゃんとその真意が伝わったようでほっとしています。
今でもコンビニに牛乳を買いに行くと、ついついこれを買ってしまいます。ただ先頃、Meijiのロゴが変わってしまったことで、その完璧さが少し崩れてしまったのが、実に惜しい。
(画像は佐藤卓デザイン事務所のウェブから)