「Siri」と呼ばれる Apple のバーチャルアシスタント機能が各紙で絶賛されている。確かに Siri はそれだけの価値があるものだ。
New York Times の David Pogue 氏は、Siri を「クレイジーだ。音声認識の概念を変えた」と評価する。
Wall Street Journal の Walt Mossberg 氏は Siri を「試してみなければ、信じられない」と評した。
Siri は、一般消費者向け人工知能(Artificial Intelligence:A.I.)が飛躍的な進歩を遂げたことの象徴とも呼べるものだ。かつての iPhone がタッチパネルをインターフェイスの主流にしたときと同じように、iPhone 4S の Siri は音声認識と A.I. をメインストリームにしていくだろう。
iPhone 4S が発売され Siri が利用可能になったことで、私たちはパーソナルコンピューティングの全く新しい段階へと足を踏み入れた。SF 小説や映画で数限りなく描かれていた世界だ。コンピューターに向かって語りかけ、コンピューターはそれを理解し、人間の声で答えてくれる。
iPhone 4S を買うかどうか迷っている人には、買うことをお勧めする。でも、それが A.I. のすべてだとは思わないで欲しい。遠くない将来、Siri は Google が提供する A.I. に凌駕されていく。なぜかって?
データがすべてだ
Siri は現時点で、もっとも優れたコンシューマー向け A.I. 製品と言える。
Siri は 2010年8月にリリースされた Google の「Voice Actions for Android」よりも優れている。Siri の音声認識能力と応答能力は Voice Actions for Android のそれを上回る。また、Siri は iPhone に完全に統合されているため、他のアプリとの連携性も高い。
だが、一時的に優勢だからといって勘違いしてはいけない。A.I. 戦争は、始まったばかりなのだ。そして、この戦いでは、最終的に Google が勝利を収める。
近い将来、キーボードを使って「ググる」人より、バーチャルアシスタントを使って検索する人の方が多くなる。だから、Google の企業としての存続は、検索サービスを音声認識と A.I. を使ったバーチャルアシスタントへと移行できるかどうかにかかっている。
そんなときにあらわれた Siri は、一言でいえば「検索」という Google のコアビジネスへの真正面からの挑戦だった。
しかし、今後 A.I. は徐々にありふれたものとなっていく。Google、Microsoft といった企業は、Siri よりも優れた人 A.I. を作りだす。これにより、Siri の驚くべき機能は、1年かそこらで陳腐化し始めるのだ。Siri ができることに驚いていた人たちは、やがて Siri ができないことに苛立ちを感じ始めるだろう。
たとえば、現在の Siri では、次のようなリクエストに応えることはできない。
「姪の誕生日には何を買うべき?」
「マーケティングマネージャーには誰を雇うべき?」
さらに、現在のSiri では、自発的に発言をすることもできない。
「お勧めしたい新刊書があるのですが」
このようなリクエストに応えたり、自発的な行動を起こしたりするには膨大なデータが必要となるからだ。
Google はすでにそれを持っている。
Google は、あなたの過去の Web ブラウズ履歴から、すでにあなたの姪のことを知っているし、何に興味を持っているかも知っている。あなたの近所に住んでいるマーケティングに詳しい求職者の名前も知っている。Google は、あなたがどんな傾向の本を好むかも知っている。
Google が得意なのは、データ収集だけではない。Google はデータを利用してそれを有効活用することにも長けている。今後起こりうることを予測することもある程度できるようになっている。ちょっとした例をあげよう。
数年前、Google はライバル企業に優秀な人材を奪われる「頭脳流出」に悩まされていた。これに歯止めをかけるため、彼らは、勤務評価、昇給、昇進履歴、その他の人事データからアルゴリズムを作りだし、次にどの従業員がいつ頃辞めたいと言いだすかを予測しはじめた。このシステムはスタッフの流出を抑えることに貢献している。
大量のデータを、予測を含む有益な情報へと変換する能力に関しては、Google の右にでる企業はない。これは、彼らの DNA と言ってもよいだろう。
Google には、もうひとつコアとなる能力がある。ユーザーから学ぶ能力だ。
非常に興味深い例をあげよう。CAPTCHA というシステムをご存じだろうか? あなたがスパムボットではなく、人間であることを確認するために使われるものだ。ログイン時に、ぐにゃりと曲がったり、色がついたりした文字を読み取って、それを入力させる。機械では読みにい文字を正しく読み取れればシステムはあなたを人間と認めてログインを許可する。
Google は、このシステムを開発元の Carnegie Mellon 大学から取得し、reCAPCHA と呼ばれるシステムを提供している。このサービスは、ログインが人間によってなされていることを確認するだけのものではない。スキャナーで読み取れなかった書籍データを「クラウドソーシング」(群衆にアウトソースするの意味)することで解決するものだ。
何年もの間、Google は、何百万冊もの書籍、新聞、雑誌をスキャンし続けてきた。彼らの、スキャン画像から文字を認識しテキスト変換する技術は、大変優れたものだ。
だが、それでも読み取れない単語が残る。そういった言葉を Google は reCAPTCHA を使用して、サイトにログインしようとするユーザーに「クラウドソース」しているのだ。
あなたが reCAPTCHA を採用しているサイトにログインするとき、2つの言葉を入力するように要求される。1つ目の言葉はあなたが人間であることを確認する目的で使われる。だが、2つ目の言葉の入力は、Google に対しての無料奉仕だ。OCR で読み取れなかった文字を入力させているのだ。そして、多くの人々の入力結果が一致したとき、システムはその入力結果が単語の正しいスペルだと認識し、スキャンされた書籍に採用する。こうして、こつこつとデータを集め、データ読み取りの精度を少しずつ向上させ、スキャンされた書籍の品質を少しずつ高めてきたのだ。天才としか言いようが無い。
reCAPTCHA システムは、Google が検索アルゴリズムを向上させてきたシステムとそっくりだ。Google は、人々が検索した後でどのリンクがクリックされるか調べる。また、クリックされるまでにはどれくらいの時間がかかるかも。こうして1人1人の検索結果をデータとしてこつこつと積み上げ、検索アルゴリズムを少しずつ向上し、検索の品質を少しずつ高めてきたのだ。
さて、このクラウドソースによる学びのシステムを、バーチャルアシスタントへあてはめたらどうなるだろう?
Google は、何百万人もの人たちの音声データから、あらゆるアクセントを学ぶだろう。やがて、下手な英語も認識できるようになる。また、ユーザーがある行動を起こしたとき、それが不完全であったとしても、その行動の先には何があるかを予測するようになるだろう。
たとえば、1万人のユーザーが、 A.I. に対して「どうなってるんだ?」と聞いたとしよう。これに対する A.I. の反応は、最初は的外れなものとなる。だが、その後ユーザーは、質問をもっと明確なものに変える。たとえば、「私の E メールとカレンダーに大事なことがあったら教えてくれ」といった具合だ。Google のアルゴリズムは、ここから学ぶ。A.I. は、「どうなってるんだ?」と聞かれたときは、重要なEメールとその日の予定を伝えればよいのだと理解するようになる。
やがて、何百万人とのやり取りの中で、Google のA.I. システムは着実に向上していくだろう。
もう一度言う、データがすべてだ
A.I. には、あなたやあなたの姪についての知識だけでなく、世界のあらゆることに対しての知識が必要とされる。
現状、Apple は Wolfram-Alpha の知識ベース、Wikipedia のデータ、Open Table のレストラン予約システムなどのサービスをライセンスしており、これらは Siri に強力なパワーを与えている。だが、Apple がレンタルできるものは、Google だってレンタルできる。
その上、Google には、世界最大の知識源がある。自身の持つ検索エンジンだ。さらに、あなたが物を買うときに、人とコミュニケートするときの助けとなる様々なサービスも持っているのだ。
現在のところ、仮想アシスタントの世界は、Apple と Siri のものだ。でも、これで終わりではない。そのうち、A.I. の分野では、Apple が Google の膨大なリソースに勝てないことが誰の目にもあきらかになる。
そのときあなたは、Siri をくびにして、Google の A.I. を秘書として雇うだろう。でも、Apple ファンが心配することはない。Google の A.I. は、きっと iPhone からも使えるようになるはずだから。
”- あなたは iPhone 4S の Siri をくびにして、Google A.I. をアシスタントに雇う - japan.internet.com (via yaz1966)
2011-10-17 (via gkojax-text)